1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

この映画の舞台となった永遠の都ローマは、七つの丘とテヴェレ川①からなるダイナミックな地形に先ずは特徴づけられる。ヨーロッパの都市のなかでも、抜きんでて、変化に富んだ自然条件の面白さを誇るといえよう。  その豊かな土地に、古代ローマの都市が形成されたが、その建国の歴史にも<川>と<丘>の存在が深く結び着く。テヴェレ川を籠に揺られて漂着したロムルスとレムスの双子の赤ん坊を、雌オオカミがパラティーノの丘で自分の乳で育て、やがてロムルスがローマを建国した、と伝えられるのだ。ローマの魅力はまず、丘と川を主役とする舞台としての<空間>の大きな広がりにある。  さらに、この都市は、悠久の<時間>を感じさせる歴史の厚みを誇っている。古代ローマの上に、カトリックの総本山、バティカンを中心に、中世、ルネサンス、そしてバロックの見事な建築、芸術を誇る壮麗な都市を築き上げた。この映画は、ローマのこうして生まれた魅力ある空間、場所を舞台としてふんだんに使っている。  冒頭で登場するのは、テヴェレ川の西の高台にあたるジャニコロの丘②で、そこからは、ローマの歴史的な中心市街地のパノラマが望める。この一角に、パオラ水道の泉③が見事なモニュメント(記念碑)として聳える。古代ローマのトラヤヌス帝の時代に33km離れた湖から引かれた水道を17世紀初めに再建したもので、その水道の終点を記念するための泉としてつくられた。トレヴィの泉などと並び、ローマ3大泉なのだ。このパオラ水道の泉が最初に登場することで、我々はローマの丘からの壮麗な眺望に驚きを感じつつ、古代とバロックの記憶へと一気に誘われる。  映画の全編を通して登場する主人公ジェップ・ガンバルデッラの自宅で、しばしばパーティが華やかに催される館として、ローマの実に象徴的な場所が選ばれている。七つの丘の一つ、緑に包まれたチェリオの丘にあり、その北の低地に聳える古代ローマの有名な円形闘技場、コロッセオ④を真下に望む格好の場所だ。

市民が熱狂する剣闘士と猛獣の戦いの場だったコロッセオだが、楕円形に美しい弧を描く外壁に、4層に柱が重ねられ、その間にアーチが連なる重厚な姿が夜間、照明でくっきり浮かび、舞台背景として最高の効果を上げている。  壮大な古代の建造物が現代の都市の真ん中に、今なお存在感をもって存在し続けることこそ、ローマが人々の心を虜にする最大の理由であろう。遺跡の間を抜けるフォーリ・インペリアーリ通り⑤の奥に照明されたコロッセオが瞬間写る場面は、何とも美しい。 グーグルアースなどで確認すると、この位置にはサンティ・ジョヴァンニ・エ・パオロ教会の修道院⑥があり、そのコロッセオを望む開放的な屋外テラスが映画のなかで祝宴の会場になっている。  古代の遺跡としては、田園のなかに悠然と存在する連続アーチの水道橋⑦の遺構がパフォーマンスの舞台として登場。これまた、ローマ以外ではあり得ない空間と時間の壮大なドラマを感じさせる。  ローマのルネサンス、バロックの名建築が要所、要所に登場し、舞台としての魅力を遺憾なく発揮している。先ずは、冒頭のジャニコロの泉のすぐ下のエリアにある、建築家ブラマンテが設計したテンピエット(小神殿)⑧だ。修道院の中庭に独立して建つ円形の姿をした、盛期ルネサンスの古典的な建築で、地下空間も含め、その特徴ある構成が舞台として不思議な魅力を生んでいる。  ローマの北の市壁のすぐ外に16世紀につくられたヴィッラ・ジュリア(現エトルリア博物館)⑨も、効果的に使われている。ジュリオ・ロマーノ設計のマニエリズムに属する個性的な建築造形をもち、この作品そのものが演劇的な空間構成を実現しているのだ。  次のバロック時代の空間としては、ナヴォナ広場とその象徴的建築、サンタニェーゼ教会⑩が背景としてさり気なく登場する。同じ建築家ボッロミーニによるパラッツォ・スパーダのだまし絵的な通廊⑪の空間もそもそも演劇的で、この映画の舞台にふさわしいものだ。  この映画作品に描かれた「グレート・ビューティー/追憶のローマ」を、舞台としての建築と都市空間に目を凝らして見ていくのも、大きな愉しみである。